任意特定適用事業所とは?対象者・加入条件・手続きをわかりやすく解説

任意特定適用事業所とは、特定適用事業所に該当しない事業所が、事業主の申出と一定の同意手続きを行うことで、短時間労働者を健康保険・厚生年金保険の加入対象とする事業所です。

「パート・アルバイトの従業員にも社会保険を適用したい」「従業員から社会保険に加入したいと言われた」という場合などに、任意特定適用事業所の制度を利用できる可能性があります。

また、2026年10月1日から短時間労働者の社会保険加入における賃金要件が撤廃され、制度を取り巻く環境も変わっています。さらに、2026年10月以降に新たに任意特定適用事業所となった事業所は、一定の要件を満たせば「保険料調整制度」を利用できます。日本年金機構

この記事では、任意特定適用事業所について、

  • 任意特定適用事業所とは何か
  • 特定適用事業所との違い
  • どのような従業員が社会保険の加入対象になるのか
  • 2026年10月から何が変わったのか
  • メリット・デメリット
  • 手続きの方法
  • 任意適用事業所との違い
  • 保険料調整制度との関係

について、社会保険労務士がわかりやすく解説します。


任意特定適用事業所とは?

任意特定適用事業所とは、厚生年金保険の被保険者数が特定適用事業所の基準を満たしていない適用事業所であっても、事業主が申し出ることで、短時間労働者への社会保険の適用を行う事業所です。

任意特定適用事業所となるためには、事業主だけの判断ではなく、一定の同意を得たうえで日本年金機構へ申し出る必要があります。日本年金機構

簡単にいうと、

「本来は短時間労働者への社会保険の適用拡大の対象ではない規模の会社が、労使の合意によって、対象となる短時間労働者を社会保険に加入させる制度」

と考えるとわかりやすいでしょう。

なお、任意特定適用事業所となった場合、加入要件を満たす短時間労働者については、希望者だけを選んで加入させるのではなく、制度上の対象者が加入することになります。厚生労働省


特定適用事業所との違い

任意特定適用事業所とよく似た言葉に「特定適用事業所」があります。

両者の大きな違いは、社会保険の適用が法律上必要となるのか、事業主の申出によって適用するのかという点です。

特定適用事業所任意特定適用事業所
基本的な考え方一定の企業規模等の要件を満たす事業所特定適用事業所に該当しない事業所が申出により適用
短時間労働者への適用法律上の要件を満たすと適用事業主の申出により適用
労使の同意任意特定適用事業所の申出に必要な同意は不要一定の同意が必要
対象者社会保険の加入要件を満たす短時間労働者社会保険の加入要件を満たす短時間労働者
会社の規模現在は原則として厚生年金保険の被保険者数が51人以上特定適用事業所に該当しない事業所

現在の特定適用事業所は、原則として厚生年金保険の被保険者の総数が50人を超えることが見込まれる企業等を指します。なお、企業規模要件は2027年10月以降、段階的に縮小され、2035年10月には撤廃される予定です。日本年金機構

「従業員50人以下なら任意特定適用事業所」という意味ではない

ここは注意が必要です。

企業規模を判断するときは、単純な「従業員数」ではなく、厚生年金保険の被保険者数を基準として考えます。

そのため、

「従業員が50人以下だから必ず任意特定適用事業所になる」

という意味ではありません。


任意特定適用事業所で社会保険に加入する人

任意特定適用事業所となった場合、短時間労働者のうち、社会保険の加入要件を満たす人が加入対象となります。

ここで重要なのが、2026年10月1日から加入要件の一部が変更されたことです。


2026年10月から「月額8.8万円」の賃金要件が撤廃

2026年10月1日から、短時間労働者の社会保険加入要件のうち、

所定内賃金が月額8.8万円以上

という賃金要件が撤廃されました。日本年金機構

そのため、現在は「106万円の壁」と呼ばれていた月額8.8万円の賃金要件を、短時間労働者の社会保険加入要件として考える必要はありません。

現在の主なポイントは、

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生ではない
  • 2か月を超えて雇用される見込みがあること

などです。

また、通常の労働者の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上で働く人は、企業規模にかかわらず、別の「4分の3基準」により社会保険の加入対象となる場合があります。日本年金機構


週20時間以上が一つの重要な基準

短時間労働者については、週の所定労働時間が20時間以上であることが重要な加入要件の一つです。

ここでいう労働時間は、原則として実際の残業時間などではなく、雇用契約書や就業規則などに記載された通常の週の所定労働時間を基準に判断します。厚生労働省


学生は原則として対象外

短時間労働者の社会保険適用では、学生ではないことも要件の一つです。

ただし、学生であっても4分の3基準を満たす場合など、別の基準によって社会保険の対象となる場合があります。

個別のケースでは、勤務時間や雇用契約などを確認する必要があります。厚生労働省


任意特定適用事業所になるメリット

任意特定適用事業所になることで、会社と従業員の双方にメリットがあります。

企業側のメリット

人材採用でアピールしやすくなる

社会保険に加入できることは、パート・アルバイトなどの人材にとっても勤務先を選ぶ際の重要なポイントになります。

社会保険の適用を希望する人材にとって、採用面でプラスになる可能性があります。

人材の定着につながる可能性がある

健康保険や厚生年金保険に加入することで、従業員が安心して働きやすくなることが期待できます。

その結果として、人材の定着につながる可能性があります。

福利厚生の充実につながる

社会保険への加入は、単なる給与面だけではなく、病気・けが・出産・老後などに対する保障にも関係します。

「従業員を大切にする会社」という姿勢を示すことにもつながります。


従業員側のメリット

将来受け取る厚生年金が増える

厚生年金に加入すると、国民年金に加えて厚生年金の保障を受けることになります。

そのため、加入期間や報酬などに応じて、将来の年金額が増える可能性があります。

傷病手当金や出産手当金の対象になる

健康保険の被保険者になることで、一定の要件を満たした場合、病気やけがで休業したときの傷病手当金や、出産のために休業したときの出産手当金などの給付を受けられます。

障害・遺族に対する保障が充実する

厚生年金に加入することで、一定の要件を満たした場合、障害厚生年金や遺族厚生年金の対象となる場合があります。


任意特定適用事業所になるデメリット

メリットだけでなく、会社側には負担もあります。

会社の社会保険料負担が発生する

社会保険に加入する従業員が増えると、原則として会社も健康保険料・厚生年金保険料を負担することになります。

そのため、任意特定適用事業所となる前に、会社負担額を試算しておくことが重要です。

社会保険の手続き・給与計算が増える

対象となる従業員の資格取得手続きや、毎月の社会保険料の計算・管理など、事務負担も発生します。

特にパート・アルバイトの勤務時間が変動する会社では、加入対象者の管理を適切に行う必要があります。

従業員への説明が必要

社会保険に加入すると、従業員本人が負担する保険料も発生するため、給与の手取り額が変わる場合があります。

会社として制度を導入する場合は、

  • なぜ加入するのか
  • 誰が対象になるのか
  • 保険料はいくら程度になるのか
  • どのような保障を受けられるのか

などを従業員に説明しておくことが大切です。


任意特定適用事業所になるための手続き

任意特定適用事業所になる場合、基本的には次の流れで手続きを進めます。

STEP1 対象となる事業所か確認する

まず、自社が特定適用事業所に該当していないか、現在の社会保険の加入状況などを確認します。

そのうえで、短時間労働者への社会保険適用を任意で行うことを検討します。


STEP2 同意を得る

任意特定適用事業所の申出には、一定の同意が必要です。

現在の日本年金機構の案内では、同意対象者は、

  • 厚生年金保険の被保険者
  • 70歳以上被用者
  • 一定の要件を満たす短時間労働者

です。

これらの同意対象者について、過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合の同意、ない場合には過半数代表者の同意または同意対象者の2分の1以上の同意など、所定の手続きが必要です。日本年金機構


STEP3 「任意特定適用事業所申出書」を提出する

同意を得たら、事業主が「健康保険・厚生年金保険 任意特定適用事業所申出書」を提出します。

提出先は、事務センターまたは管轄の年金事務所です。提出方法は郵送または窓口持参などがあります。日本年金機構


STEP4 対象となる従業員の資格取得手続きを行う

任意特定適用事業所となった後は、社会保険の加入要件を満たす短時間労働者について、資格取得の手続きを行います。

ここで重要なのは、

任意特定適用事業所になったからといって、会社が希望する従業員だけを加入させる制度ではない

という点です。

加入要件を満たす対象者について、適切に資格取得手続きを行う必要があります。厚生労働省


任意特定適用事業所を取り消すことはできる?

任意特定適用事業所については、取消しの手続きも設けられています。

取消しを行う場合も、所定の同意を得たうえで「任意特定適用事業所取消申出書」を提出する必要があります。取消しの場合は、申出時とは異なる同意要件が設定されていますので注意が必要です。日本年金機構

会社の状況が変わったからといって、自己判断で社会保険の適用をやめることはできません。


任意特定適用事業所と任意適用事業所の違い

「任意特定適用事業所」と「任意適用事業所」は名称が似ていますが、制度の目的が異なります。

任意特定適用事業所任意適用事業所
主な目的短時間労働者への社会保険適用事業所そのものを社会保険の適用事業所にする
主な対象すでに適用事業所となっている事業所法律上の強制適用事業所以外の事業所
手続き任意特定適用事業所の申出任意適用の申請・厚生労働大臣の認可
ポイント短時間労働者への適用拡大事業所自体の社会保険加入

任意適用事業所は、法律上の強制適用事業所以外の事業所であっても、一定の手続きを行い、健康保険・厚生年金保険の適用事業所となる制度です。日本年金機構

名前は似ていますが、「短時間労働者への適用拡大」なのか、「事業所自体を適用事業所にする」のかで区別するとわかりやすいでしょう。


2026年10月から始まった「保険料調整制度」とは?

2026年10月1日から、社会保険の「保険料調整制度」が始まりました。

これは、新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者について、就業調整による手取り額の減少を緩和するため、事業主が一定期間、従業員の社会保険料の一部を追加負担することで、従業員の保険料負担を軽減する制度です。日本年金機構


任意特定適用事業所も保険料調整制度の対象になる

2026年10月1日から2035年9月30日までの間に新たに任意特定適用事業所となった事業所は、一定の条件を満たせば保険料調整制度の対象となります。日本年金機構

制度の利用期間は通算3年間です。

また、対象となるのは、短時間労働者として健康保険・厚生年金保険に加入し、かつ標準報酬月額が126,000円以下の被保険者です。日本年金機構


保険料調整制度を利用するとどうなる?

例えば標準報酬月額が88,000円の場合、制度利用1~2年目の保険料軽減割合は25%、3年目は12.5%です。

標準報酬月額によって軽減割合は異なり、3年目は1~2年目の半分になります。日本年金機構

なお、事業主が追加負担した保険料については、一定の方法で後から調整されます。

したがって、2026年10月以降に任意特定適用事業所となることを検討している企業にとっては、「任意特定適用事業所」と「保険料調整制度」をセットで理解することが重要です。


任意特定適用事業所に関するよくある質問

Q. 従業員が50人以下なら任意特定適用事業所になりますか?

いいえ。

「従業員数50人以下だから自動的に任意特定適用事業所になる」という制度ではありません。

特定適用事業所の企業規模は、原則として厚生年金保険の被保険者数を基準に判断します。

特定適用事業所に該当しない適用事業所が、一定の同意を得て申し出ることで任意特定適用事業所となります。日本年金機構


Q. パート・アルバイトなら全員が社会保険に加入しますか?

いいえ。

任意特定適用事業所となった場合でも、社会保険の加入要件を満たす人が対象となります。

例えば短時間労働者については、週の所定労働時間20時間以上、学生ではないこと、2か月を超えて雇用される見込みがあることなどの要件を確認する必要があります。厚生労働省


Q. 月額8.8万円未満なら社会保険に加入しなくてもよいですか?

2026年10月1日以降は、原則として「月額8.8万円以上」という賃金要件は撤廃されています。

そのため、以前の「月額8.8万円」「年収約106万円」という基準だけで社会保険の加入対象かどうかを判断することはできません。日本年金機構


Q. 任意特定適用事業所になると会社の負担は増えますか?

社会保険に加入する従業員が増えれば、原則として会社負担の社会保険料も増えます。

ただし、2026年10月以降に新たに任意特定適用事業所となった事業所は、一定の条件を満たせば保険料調整制度を利用できます。日本年金機構


Q. 任意特定適用事業所になると、従業員にどんなメリットがありますか?

健康保険・厚生年金保険に加入することで、一定の要件を満たせば、傷病手当金や出産手当金、厚生年金による老齢・障害・遺族に対する保障などを受けられる可能性があります。


Q. 任意特定適用事業所と任意適用事業所は同じですか?

同じではありません。

任意特定適用事業所は、主に短時間労働者への社会保険の適用を拡大する制度です。

一方、任意適用事業所は、法律上の強制適用事業所以外の事業所が、一定の手続きを経て健康保険・厚生年金保険の適用事業所となる制度です。日本年金機構


任意特定適用事業所についてのまとめ

任意特定適用事業所とは、特定適用事業所に該当しない適用事業所が、一定の同意と手続きを行うことで、短時間労働者を健康保険・厚生年金保険の加入対象とする制度です。

ポイントをまとめると、

  • 任意特定適用事業所は事業主の申出によってなることができる
  • 一定の労使の同意が必要
  • 加入要件を満たす短時間労働者が社会保険の対象となる
  • 2026年10月から月額8.8万円以上という賃金要件は撤廃された
  • 2026年10月以降に新たに任意特定適用事業所となった事業所は、一定の条件で保険料調整制度を利用できる
  • 社会保険の適用によって従業員の保障が充実する一方、会社側には保険料負担や事務負担が生じる

という点が重要です。日本年金機構

任意特定適用事業所にするべきかどうかは、従業員の人数だけでなく、勤務時間、社会保険料の会社負担、従業員への影響、保険料調整制度の利用可否などを総合的に検討する必要があります。

「自社は任意特定適用事業所にできるのか」「パート・アルバイトの誰が社会保険の対象になるのか」「会社負担はいくらになるのか」など、具体的なケースについては、社会保険労務士にご相談ください。

保険料調整制度

新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者(パート・アルバイト)の方が、手取りの大幅な減少を気にせず働けるよう、制度利用から通算3年間、対象となる従業員の社会保険料を軽減する制度です。